ストレスは、発散するより見分ける|ストレスとの上手な付き合い方

心理学

ストレスと聞くと、「心や身体に悪いもの」「できるだけ減らした方がいいもの」という印象を持つ人も多いでしょう。

確かに、強い負荷が長く続けば、心身は消耗します。

しかし、新しいことへ挑戦するときの緊張や不安も、ストレスの一つです。その先には、成長や達成感が待っていることもあります。

ストレスは、人を苦しめることもあれば、人生を前へ進める力にもなる。

大切なのは、すべて避けることではなく、そのストレスを見分けることです。

進むためのストレスと、自分を削るストレス

希望と試練の分かれ道

ストレスには、進むためのものと、自分を削るものがあります。

進むためのストレス

やりたいことに挑戦するとき、緊張するのは自然なことです。

「失敗したらどうしよう」
「周りに馴染めなかったらどうしよう」

そんな不安があっても、その先に自分の望んでいるものがあるなら、避けなくてもよいストレスです。

実際に行動してみれば、思い通りの結果にならなかったとしても、「緊張していても進めた」「自分の目で確かめられた」という経験が残ります。

その経験は、次の挑戦を少し軽くしてくれます。

自分を削るストレス

一方で、耐え続ける必要のないストレスもあります。

我慢や自己犠牲を続けていませんか。食事や睡眠にまで影響が出ていませんか。休んでも、すぐに同じ負荷が積み重なってしまう。

しかも、自分の力ではほとんど状況を変えられない。

そこまで来ると、それは挑戦ではなく消耗です。

「成長のため」「自分が弱いだけ」と言い聞かせて、無理に耐える必要はありません。

問題なのは、ストレスそのものではなく、自分を削り続けるストレスです。

進むためのストレスと自分を削るストレスの特徴を比較した図解

受け止め方も、ストレスの重さに関係する

同じように大変な状況でも、挑戦として受け止められる場合と、強い脅威として感じる場合があります。

「簡単ではないけれど、何とかできそう」「自分が動けば少しは変えられる」と思える負荷は、脅威よりも挑戦として受け止めやすくなります。

反対に、同じ出来事でも、「こんなことは起きてはいけない」「自分にはどうにもできない」「最悪だ」と受け止めていると、乗り越える課題ではなく、避けなければならない異常事態として感じやすくなります。

その違いをつくるものの一つが、

自分なら対処できる

という感覚です。「自分なら何とかできる」という感覚は、前回触れた自己効力感にもつながります。

ストレスの重さは、負荷の量だけでは決まりません。

負荷と、自分なら対処できるという感覚のバランス。

そのバランスが崩れたとき、ストレスは心を強く圧迫します。

目の前の負荷と自分なら対処できる感覚のバランスを表した図解

発散より、整える

ストレスへの対処というと、「解消する」「発散する」という言葉がよく使われます。

やけ食いや飲酒に走ったり、大声を出したり、物に当たったりする。

その瞬間は、気が紛れるかもしれません。

しかし、大声を出したり物に当たったりして興奮を高めても、怒りが必ず落ち着くとは限りません。怒りを何度も思い返すことで、かえって気持ちが長引くこともあります。

ストレスは、爆発させて消すものではありません。

発散より、整える。

まず心身を落ち着かせる。そのあとで、必要なことに対処する。

順番が大切です。

心身を整える、原因を変える、離れるというストレス対処の三つのステップ

まず、心身を整える

強いストレスを感じているときは、判断力や集中力が落ちることがあります。

静かな場所で休んだり、自然の中を歩いたり、音楽や読書を楽しんだりする。身体を動かして気分を切り替える方法が合う人もいるでしょう。

まずは、自分に合った方法で心身の高ぶりを落ち着かせます。

次に、原因を変える

落ち着いても原因が残っていれば、同じストレスが繰り返されやすくなります。

問題を整理する、人に相談する、相手へ要望を伝えるなど、変えられる部分には働きかけることも必要です。

気分転換だけでは、原因そのものが変わるとは限りません。

変えられないなら、離れる

すべての問題が、努力によって解決できるわけではありません。

自分なりに働きかけても変わらず、心身を消耗させ続ける環境もあります。その場合は、負荷を減らしたり、距離を取ったり、そこから離れたりすることも大切です。

ストレスに向き合うことと、どんな環境にも耐え続けることは違います。

自分が望むものへ進む途中の緊張なのか、ただ自分を削り続けている負荷なのか。ここでも必要なのは、ストレスを見分けることです。

「ストレスは人生のスパイス」の落とし穴

スパイス香る彩り野菜ボウル

「ストレスは人生のスパイス」と言われることがあります。

確かに、適度な緊張や負荷は、毎日に刺激を与えてくれます。その意味では、ストレスは人生のスパイスになり得ます。

ただし、スパイスは多ければよいものではありません。

料理を引き立てる程度なら刺激になりますが、入れすぎれば味を壊してしまいます。ストレスも同じです。

我慢や自己犠牲が続き、休んでも回復できないほど積み重なれば、それはもうスパイスではありません。ただ心身を消耗させる負荷です。

ストレスは、あるだけで人生を豊かにするわけではない。

大切なのは、量ではなく、そのストレスが何につながっているかです。

少しの負荷を受け入れながら、自分の望む方向へ進んでいくこと。その過程で生まれるストレスが、結果として人生のスパイスになるのです。

ストレスとうまく付き合うとは、見分けること。進むための緊張なのか、自分を削る負荷なのかを見極め、自分に必要な行動を選ぶことです。

(参考文献)
1.McEwen, B. S.(2004)
Protection and damage from acute and chronic stress: allostasis and allostatic overload and relevance to the pathophysiology of psychiatric disorders.
Annals of the New York Academy of Sciences, 1032, 1–7.
DOI: 10.1196/annals.1314.001
2.McLoughlin, E., Arnold, R., & Moore, L. J.(2024
The tendency to appraise stressful situations as more of a threat is associated with poorer health and well-being.
Stress and Health, 40(3), e3358.
DOI: 10.1002/smi.3358
3.Ringeisen, T., Lichtenfeld, S., Becker, S., & Minkley, N.(2019)
Stress experience and performance during an oral exam: the role of self-efficacy, threat appraisals, anxiety, and cortisol.
Anxiety, Stress, & Coping, 32(1), 50–66.
DOI: 10.1080/10615806.2018.1528528
4.Kjærvik, S. L., & Bushman, B. J.(2024)
A meta-analytic review of anger management activities that increase or decrease arousal: What fuels or douses rage?
Clinical Psychology Review, 109, 102414.
DOI: 10.1016/j.cpr.2024.102414
5.Shields, G. S., Sazma, M. A., & Yonelinas, A. P.(2016)
The effects of acute stress on core executive functions: A meta-analysis and comparison with cortisol.
Neuroscience & Biobehavioral Reviews, 68, 651–668.
DOI: 10.1016/j.neubiorev.2016.06.038